宰子は、
ひどいことをされる憤り、怒り、苦しみを、
強制わいせつそのものであることを
されてしまうことへの悲しみや嫌悪感や憤り、
おおっぴらに嫌がられ避けられることや
ばい菌へ向けられるような冷たい視線を向けられることへの違和感、
一人になる孤独感を、生まれて初めて知った。


いつもよりずっと時が経つのが
遅く感じた。



いつもと同じ講義時間なのに、永遠と思えるほど、長い時間に感じる。



今まではずっと,学校は愉快な場所でしかなかった。こういう違和感感じたことはなかった。こんなに時が経つのが遅いなんて、はじめての体験だ。





講義中、いつものように、
各生徒が自分の名前のとなりに◯の印を書く出席カードが順に回された。


しかし、
宰子の長机のずっと後ろの長机の男子生徒は彼女の後頭部を
出席カードの挟まったボードで殴った!



彼の近くの席の亜希子と亜紗美は、大笑いをはじめる。

その大笑いは全く止まらず教室じゅうへ伝わる。

しかもその講義担当教授も、その大笑いを気に留めない。

宰子はすごく辛かった。
殴られるのがここまで悲しくいたすぎるなんて。



次に亜紗美と亜希子とが、
宰子の頭に、
自分の持ってきたタンブラーの中の熱い紅茶や
キャンパスの近くのモシバーガーから買った、
LLLサイズのホットコーヒーをぶっかけた。


あまりの熱さと辛さと屈辱で声も出ない。


亜紗美と亜希子は、大きな戦に勝ったような
勝ち誇った笑みを浮かべる。

まるで大きい戦に勝ち沢山の国を服従させ属国にした帝王のように鼻高々に大笑いをし、
『みんなに嫌われてる奴をいじめるのは間違っていないし
こいつをいじめるのはむしろあたりまえ
みんなに嫌われてる友達1人もないやつをいじめるのはむしろ当たり前の正義!』
と言い切った。



他の生徒たちは、
またまた、まるでテレビのお笑い番組を見てる時のように大爆笑した。


しかし教授も、
宰子が飲み物をかけられたのを実際その目で見たのに、
注意しなかったし、
平然と講義を続けた。
宰子が悲しんで傷ついてもどうでもいいし自分には関係のないことと思っていた。



『ひどい』


宰子が心の中で言った。
もう少しで宰子は、泣きそうだ。
ひとにいじめ、意地悪する奴になぜ生きてる権利あるのだろうか???


飲み物をぶっかけられるのも悲しすぎたけど、
それ以上に先生まで
自分がひどい嫌がらせをされてもなんとも感じず、
平然として講義続けてたことも、悲しくつらかった。


しかも宰子が自分のずっと前の長机の生徒に出席カードの挟まったボードを渡すと、前の生徒は
ひったくるかのようにボードを奪い取り、
小声で
おえー、ばい菌付いたから後で病院いかなきゃー、と言った。



しかも講義が終わる少し前
宰子の後頭部に
何かが当たった。
亜希子と亜紗美がそれぞれ、チョークや黒板消しを宰子に投げつけたのだ!



佐藤宰子は、一時間目の講義が終わると
トイレの個室に入った。



みんな、わたしを嫌いになったのかしら。


佐藤宰子が便座に座って考え込んでると、外からくすくすと笑い声と足音が聞こえた。


宰子の入っている個室のドアの外に
モップが立てかけられる。



『あのバイキンが
トイレ入ったわ!すっごい好都合だわ!
あのバイキン
やっつけよー


だいたいあのバイキンみたいに友達にすかれない友達いないやつなんか、いじめられるため生まれたのよ、
あのバイキンはね、この世に、いじめられるため生まれたのよ!そうにきまってるわ、
あのバイキンのような、友達いない虫けらはいじめられて当たり前よ!』

亜紗美の非常に意地の悪い声。



『さんせーい、
だいたいあのバイキン友達いないものねー、
友達いないあのバイキンなんて、
いじめられて当たり前なのよ、
あのバイキンはね、いじめられるため、あたしらのストレス解消のため生まれたのよ!
せーぜーあたしらのストレス解消の道具になればいいわ!』
亜希子も、亜紗美に負けず劣らず非常に意地の悪い声。


亜希子と亜紗美は、宰子に意地の悪いことをするのをまるで心底喜んでいる様子で、かつて宰子が共犯と共に、いじめを楽しんでいたのと全く同じである。

『バイキン今すぐ消えてなくなればいいよねーうちたちに病原菌移るわー


ずーーーっと学校こなくなるよーに
しよー!


それか今すぐ退学になるか
事故にあって死んだら、
いいのにねー!



せーーのっっ!!!!!!』
同じ学科の他の女子の声。




次の瞬間、
佐藤宰子の頭上から、
水がばしゃーんと
落ちてきた!


水と、
泥と、
腐った変色した味噌と、
腐った卵と、
腐った牛乳と
腐った豆腐と
腐った納豆と
腐った醤油と
墨汁と
洗濯用洗剤、
食器用洗剤、
チョークの粉がまざってた。

その次にまた
別の液体が
宰子の頭上におちてきた!



これは、
掃除に使われた
雑巾を絞ったあとの
きたなくなった水だ!


『きゃはははっ
大成功ーー!!!

あのばい菌自殺したらいいのよね!』

亜紗美、亜希子たちの立ち去る足音と
ひどく意地の悪いひどくがさつな笑い声が響いた。


宰子は、
泣きはじめた。


なぜこんなことを…されてしまうのか?




その日は次の講義には出席せず
すぐアパートの自室へ
戻った。


が、しかし!

自室でカバンを開けると、


カバンの中にも
接着剤やボンドやのり、
粉の洗濯用洗剤、
トイレ用洗剤、
風呂用洗剤、
墨汁、
何色分もの絵具、
インク、
台所用の洗剤、
腐った味噌、
腐ったみりんや料理酒、
腐ったパン粉、
腐った天ぷら粉、
腐ったドレッシング、
腐ったオイスターソース、
腐ったケチャップ、
腐ったマヨネーズ、
腐った豆板醤
腐ったコンソメ、
腐った甜麺醤が、
腐ったオリーブオイルやごま油
が、
容赦無く、これでもかというほどに
ぶちまけられていた。


もはやこのカバンと、入れていたテキストや財布は、使い物にならず、
新たなテキストを大学生協で
買わないといけなかった。
そのため、
テキストとカバンと財布で
かなり出費になってしまった・・・。


宰子は買ってきた新しいテキストとカバンと財布を自室の床へ置くと、両目に大粒の涙を浮かべ、
それから何時間も泣いた。



なぜあそこまで意地の悪いことをされないと、いけないのか。