すぐには屋敷に近づかず、真砂は屋敷から少し離れたところに流れる川に降りた。
 そのままぶらぶら、辺りを流す。

「……何となく、家臣どもの話しぶりからすると、二人は別々のところにいるようだな」

 前を向いたまま、真砂が言う。
 小さく捨吉が頷いた。

「的(まと)が寵愛しているのは、一人のようです」

 俯いたまま言う捨吉に、真砂は振り向いた。

「おい。私情を挟むなよ」

 厳しい声音に、捨吉は、はっと顔を上げた。

「お前があきを心配しているのは知っているがな、あきを助け出すことを第一に考えるな。第一の目的は、密書を盗み出すこと。あきと千代は、その次だ」

「は、はい。すみません」

 慌てて捨吉が頷く。

 若干変わったとはいえ、やはり真砂は、任務に関しては非情さも見せる。
 そうでないと駄目なのだ、と自分に言い聞かせ、捨吉は拳を握りしめた。