遠ざかる足音に、ドクドクと心臓が高鳴る。


先生、あたしの名前を呼んでくれなかった……。


いつもの日課になっているハズの挨拶を聞くことができなくて、あたしの胸はギュっとしめつけられた。


ホームルーム中先生が何かを話していても、耳に入ってこない。


ほんの15分ほどのホームルームが永遠のように長く感じる。


その間、あたしは1度も顔を上げなかった。


先生の顔を直視することができない。


このままなにもなく過ぎて行ってほしい。


そう思っていた。


でも……。


「野上。1時限目が終わった後で職員室に来い」


先生が、あたしに向けてそう言ったのだ。


「へ……?」


あたしはようやく顔を上げて、今日初めて先生の顔を直視した。