あたしは先生が働いている時の顔しか知らない。


もちろん、特別な表情を見せてくれていると感じることは沢山ある。


でも、先生の総長としての顔は、まだ見たことがない。


怖いと思うと同時に、心の中に好奇心が湧いてくるのがわかった。


先生の本当の顔ってどんな顔だろう？


黒龍は沢山の人間を束ねていると噂では聞いているけれど、何人くらいいるんだろう？


そして、その頂点に立っている時の先生はどんな先生なんだろう……。


次々と出てくる疑問に、あたしは自分がウズウズしていることに気が付いた。


「……行きたい」


気が付けば、そんな言葉を口に出していた。


「じゃぁ、下りて来いよ」


安岡君がそう言う。


でも……。


こんな時間に家を出るなんて、できるワケがない。


なにか正当な理由がないと……。


そう思っていると何を思ったのか杉田君が両手を差し出してきたのだ。


そして、「ん」と、一言言う。


まるで、ここに飛び降りて来い。


と言っているように見える。


すると隣の安岡君が、呆れたように杉田君を見つめた。