病院の廊下で、あたしはずっと真咲に肩を抱かれていた。
目の前にある扉の向こうでは、お父さんが手術を受けているところ。
それが始まる前に、あたしはお医者さんと看護師さんからいろいろな説明を受け、お父さんは胃かいようであること、命に別状はないってことだけはわかった。
それでも、お父さんの元気な顔を見るまでは、ほっとすることができない。
あんなにたくさんの血を吐いて、本当に大丈夫なの……?
何度も同じことを考えてはこわくなって、真咲の服をぎゅっとつかんで、それに耐えていた。
そうしてしばらくすると、あたしたちのいる場所に近付いてくる足音が聞こえた。
きっと病院の人だろうと顔を上げずにいたら、真咲があたしの体をそっと離して、椅子から立ち上がる。
「先生……」
「遅くなってすみません。真咲くん、岩崎さん」
……聞き覚えのある声。
夏休み中は会うことがなかったけど、あたしが信頼してる数少ない大人のうちの一人。
どうしてここにいるんだろう。
真咲が連絡してくれたのかな……
「恩田、せんせ……」
その顔を見たら、涙が溢れてきた。
ずっと隣に真咲がいてくれたとはいえ、子ども二人だけでいるのはやっぱり心細かった。
しゃくりあげるあたしの前に先生がしゃがんで、膝の上で握りしめている手にそっと先生の手が重なった。

