「……どーしたの、急に?」
「さっき言ったじゃん。アンタ。キスしたら好きになるかもって」
「いいよ? 無理しなくて」
あまり気が乗らないらしい大森に、あたしの方から歩み寄った。
「……あたし。毎日、なんか満たされないんだよね……何してても、どっか冷めてる自分がいて。でも、そういうの、変えたいんだ。アンタみたいな明るい人に触れて」
「……ココちゃん。わかった」
大森が、あたしの両手を優しく取る。
少し首を傾げた大森の顔が接近してくるのを感じると、あたしは瞳を閉じた。
まぶたの裏が、花火の音とともにちかちか明るさを変える。
こうしてても、花火って、見えるんだ……
そんなことを思いながら、あたしが初めてのキスを待っていたときだった。
「――ちょっと待った!」
突如聞こえてきた大声とともに、目の前を風が切った。
何……?
うっすらと目を開けると、至近距離にあったのは、金魚柄のうちわ。
それはまるで、あたしと大森のキスを阻止するように、顔と顔の間に立てられていて。
「……うわ。邪魔者きやがった」
迷惑そうな大森の声を聞いて、あたしも顔を上げる。
そこにいたのは、ぜえぜえと肩で息をする、苦しそうな真咲。
「真咲……?」
「間に合った……つーか勝手に消えるなよ」
そう言った彼はおでこにかかる前髪をぐいっとかき上げると、あたしをじろりとにらんだ。

