「湖々……ごめんなさい。急に会いに来たりして……」
深々と頭を下げたお母さん。
その言葉尻は震えていて、泣いているようだった。
「それは、いいけど……なんで、こんな場所に」
「……最初はね、写真集で……湖々の成長が見られただけでも嬉しかったの。だけど、この握手会のチケットが入ってるのに気がつくと、あなたに会いたい気持ちが抑えられなくなって……」
お母さんはぐす、と鼻を啜り、目頭にハンカチを当てる。
でもあたしは、わりと冷静にその姿を見ていた。
別にお母さんを恨んでるとか、嫌ってるとか、そういうんじゃないけど。
オトナになっていくにつれ、もうお母さんは記憶の中だけの人って、割り切れるようになっていたから。
「……お父さんは、元気?」
「……うん」
「そう……湖々のこと、困らせてるんじゃないかと思って、ずっと心配だったんだけど」
「困らせる……? どういう意味?」
あたしはそこで初めて、お母さんに質問を返した。
今朝家で握手会のことを話したら、笑顔で「頑張れよ」って言ってくれた、お父さんを思い出しながら。
するとお母さんは困った表情をしながら、あたしに言う。
「あの人……ちょっと執着心が強いところがあって。最後の方、お母さんにものすごいプレゼントの押し売りをしてきたの。私が欲しかったのは、そんなものよりも一緒に過ごす時間だったのに、それには全然気づかずに、仕事ばかりして。稼いだお金でまたプレゼントを買って……」

