「ディアラン!」

……あっ……!

しまったと思った時には既に遅く、愛世は息を飲んで硬直した。

部屋にいたのはなんとアルファス王であったのだ。

な、なんでここにアルファス王が……?

アルファスとはあの日以来、顔を合わせていなかった。

あの時の強引で冷たいキスを思い出して、愛世は胸に鉛を流し込まれたように苦しくなった。

一方アルファスは、ディアランと言いながら瞳を輝かせて部屋に入ってきた愛世を見て内心驚いた。

見る者を魅了するようなフワリとした笑顔で、愛世はアルファスを真っ直ぐに見つめたのだ。

だがアルファスと判った途端、咲いたばかりの花に似た笑顔は、瞬く間に蕾に逆戻りしたかのように固く閉じてしまった。

……今の笑顔は……俺に向けられたのではなく、ディアランへのものだったんだ。

たちまちのうちに、アルファスの胸が焦げるように疼く。

そんなアルファスの前で、愛世は小さく頭を下げると素早く立ち去ろうとした。

「待て!」

アルファスは、慌てて愛世を呼び止めた。

慌てたために声が必要以上に大きくなったが、それに構う余裕はなかった。

そんなアルファスに呼び止められた愛世は、その声の大きさに責められているのかとおののき、固まったように動きをとめた。

「……待て」

二度目の声は冷静だった。

先程とはうって変わった静かな声に愛世は少し落ち着きを取り戻した。