「……なんでもないわ」

クタリと胸に寄り掛かったままの愛世が可愛くて、ディアランは彼女の髪を優しく撫でた。

その手が、心地よい。

……ああ、ディアランは本当に優しいわ。

ディアランの温かさを感じているうちに、愛世は次第に元気が出てきた。

……そうだ。私は……精一杯生きると決めたんだ。

失敗はしても後悔はしないように。

すぐにいじけてメソメソするなんて、ダメ。

愛世は頭を起こしてディアランを見上げると、少し微笑んだ。

「ディアラン。私、頑張るわ」

言うなり愛世はディアランの頬に力強くキスをすると立ち上がった。

「……アイセ?」

「いつまでも落ち込んでいるなんてダメよね。ディアラン、私今からちょっと用があるの。また明日ね」

愛世は言い終えるともう一度ディアランの頬にキスをして、部屋を飛び出して行った。

……アイセ……まったく……。

ディアランは、苦笑した。

涙の跡も拭かずにショボンとしていたと思うと、次の瞬間には素早く立ち直り、瞬く間に生き生きと瞳を輝かせる。

ディアランは愛世にキスされた頬に触れたまま、ひとり残された部屋で苦笑した。

なんだ、今の乱暴なキスは。

ディアランは頭を振って溜め息をついた。

ままごとのようなキスで胸が高鳴った自分に、心底呆れたのである。