「アイセ、礼を言うぞ。このティオリーンはお前のお陰で救われた」

すると愛世は僅かに首を振り、アルファスに言葉を返した。

「私はただ、皆を救いたかっただけなの。だってこの国が好きだから」

「俺は約束する。ザクシー族と話し合い、この国の民をひとつにすると」

愛世は嬉しくて頷いた。

「アルファスはすごい王様だもの。きっと出来るわ」

するとアルファスは愛世の手をとり、甲に口づけてから低い声で言った。

「アイセ。前の返事を聞きたい。今ここで」

……前の……返事。

途端にあの日のアルファスの言葉を思い出し、愛世はコクンと鳴る喉を感じながら目の前の瞳を見つめた。

『アイセ、ディアランの事はもう忘れろ。俺を見ろ。俺の熱さを感じろ。俺がどんなにお前を好きか、分かるだろう?アイセ、俺を選べ』

その切れ長の眼は、一点の曇りもなく澄みきっている。

愛世は、唇を引き結び静かに返事を待つアルファスを見て思った。

アルファスを傷付けたくない。

でも、だからこそ正直な気持ちを伝えなきゃダメだ。

愛世はゆっくりと起き上がると、意を決して唇を開いた。

「アルファス、ごめんなさい。やっぱり私はディアランが好きなの。諦めようとしたけど、そう思う度に想いが強くなってどうしようもないの」