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「アイセ!」

アルファスは公務が忙しく、愛世が意識を取り戻した夜から会えずにいた。

実際は幾度か会いに来たが彼女が診察中や就寝中であったりして、タイミングが合わなかったのだ。

「……」

愛世はアルファスに勢いよく呼ばれたが、涙で声が詰まり返事が出来なかった。

慌てて起き上がり涙を拭くも、その様子をアルファスに見られて鼻をすするしかなかった。

一方アルファスは、愛世の寝台に近寄ると床に膝をつき、両手で彼女の頬を包み込むようにしてその瞳を覗き込んだ。

「どうした?」

真っ直ぐこちらを見る潔い眼差しに、愛世は気持ちを隠すことが出来ず涙声で言った。

「アルファス、ごめんなさい」

切れ長の眼を僅かに細めて、アルファスが優しく問いかける。

「なぜ謝る?」

頬を伝う涙が、アルファスの両手を濡らした。

「私、アルファスの気持ちには答えられないの。ディアランには恋人がいるから今更この気持ちに気付いたって遅いんだけど……私、ディアランが好きなの。だからこんな気持ちのままアルファスとはいられない。本当にごめんなさい」

アルファスは、頼りなく揺れる炎に照らされながら、一生懸命自分の気持ちを話す愛世を見つめた。

それから彼女を引き寄せると、胸に抱き締める。

「そんなこと知っている。…お前が、ディアランを好きなことぐらい俺には分かっている。だが諦めろ。アイツに恋人がいる以上お前に見込みはない」