愛世はなにも言えなくて俯いた。

ディアランが会いに来てくれなかったのはそういう理由だったんだ。

でももう彼には恋人が……。

愛世は思い切るように左右に首を振った。

ダメだ、ダメだ!

ディアランに恋人が出来たのは仕方がない。

ディアランがあの人を好きで、ふたりが幸せならそれでいいと思わなきゃいけないんだ。

だってそうでしょ?

私はディアランが好き。

だからディアランが幸せなら、それでいい!

愛世は思いきり息を吸うと、ゆっくりとそれを吐いて天を仰いだ。

自分のメソメソした気持ちも吐き出してしまいたかった。

しばらく青い空を眺めていたが、やがて愛世はセロに言った。

「セロ、お願いがあるの。私を街へ連れていって!」

自分が刺された後に起こった出来事を細部まで詳しく聞いた愛世は、自分のやるべき事を見つけたと思った。

この失恋に決着をつけ、それをやらなければならないと決心したのだ。

私、やらなきゃ。次の満月の夜までに。

エリーシャが悪鬼となって甦り、アルファスやディアラン、それからこのティオリーン帝国を滅ぼす前に。