何度か瞬きをした大きな瞳は恐怖の色が残っているものの、状況を把握したのか女はおとなしくディアランを見上げた。

……やれやれ。

ディアランは女の口から手を離すと、ゆっくりとした口調で問いかけた。

「君、名は?」

「……アイセ。私はアイセ」

緊張しているのか、女は震える声で答えた。

アイセ……。

変わった名だな。やはり異国の娘か。

「どこから来た?何故ここに倒れていた?」

「そ、れは……」

愛世はどう答えていいかわからず、口ごもった。

するとディアランの後ろに控えていた部下らしき男が長剣をカチャリと鳴らし、

「答えろ女!」

「きゃああっ」

太陽の光を跳ね返した刃が、首元に迫る。

愛世は向けられた長剣の迫力に冷や汗が吹き出る思いがした。

ああ、私もうダメだわ……!

一方ディアランは、怯えきった様子の愛世を見て焦った。

これではまた泣かせてしまう。

ディアランは長剣を構えた隊員を肩越しに振り返ると、

「ここは俺に任せてくれ。お前達は山賊の残党を追え」

「……はっ!」

ディアランの部下は敬礼すると拍車を鳴らして踵を返した。