アキはまっすぐ家に帰る気分にもなれず、コウの家に立ち寄った。

「アキちゃん、今日はありがとうね。本当にすばらしかったわ。おばさん、感動しちゃった」

コウの母の笑顔がアキにとっては何よりだった。

「本当によかった」

アキは力なく微笑む。

「アキちゃん‥‥」


今までこらえていたものが一気にこみあげてきた。

アキの目からとめどなく涙が零れ落ちる。

「ケンくんのこと考えているのね?」

アキはうなずくのが精一杯だった。



「おばさん、ケン、クラス発表が全部終わらないうちに、芝山先生に連れられて帰っちゃったの」

コウの母がアキの背中をさする。

その手のひらの温かさがアキを素直にさせた。


「私、ケンに何か悪いことがあったんじゃないかって思って。それで心配で心配で。だって、ケン、もう十分つらいことあったのに‥‥。もしこれ以上つらい目にあうとしたら、そんなのひどいじゃない。だってケンはすごくいいやつで、私はケンに出会わなかったら、こんなふうになれなかったはずだから。ケンが不幸になるなんて許せないの。だって、ケンは‥‥ケンは‥‥」

コウの母はアキを抱き寄せる。

「大丈夫よ、大丈夫」

アキはコウの母の胸で泣きじゃくった。