「いっぱい絵を描けるのは楽しそうだけど…。

ママを忘れて?」



さっちゃんは少し考えてから

人差し指で

静かにおうちの絵を描き出しました。

さっちゃんのおうちです。

その家の前に

女の人と男の人の絵を描きました。

さっちゃんのママとパパです。



「私、ママが怒るのは嫌いだけど

やっぱりママを忘れることなんてできない!」

さっちゃんは泣き出しました。

さっちゃんは

たくさんたくさん泣きました。

たくさんたくさん泣いたので

その涙は今まで描いた絵を

全部洗い流してしまいました。

たちまちあたりはまた真っ白に。



 ママってそんなにいいものなのかしら?


「うん。ママは、本当はとても優しいの。

一緒にお人形さん遊びしてくれるし

お菓子だって作ってくれるし

私の絵を上手だねってほめてくれるの。

ママはあったかいの。

私はママが大好きなんだわ!

ママのところへ帰りたい!」


 私はママがいないから…


赤い靴は

大好きな『ママ』がいるさっちゃんを

羨ましく思いました。

そして

赤い靴も『ママ』が欲しいなと思いました。


 さっちゃん
 
 それなら最後に

 とっておきの

 素敵な場所に連れていってあげるわ。

 それからママの所に帰りましょう。


「素敵な場所?」


 ええ、とても素敵な場所…



そう言うと

赤い靴は歩き出しました。

すると

なんで今まで気づかなかったのか

目の前に大きな扉が見えてきました。


 ここから先は、私は行けないの。


「私一人で行くの?」


 そう、でもとても素敵な場所なのよ。

 それに真っ直ぐ進んで行けばママにも会えるわ…


「ママに会えるの?わかったわ!

赤い靴さん、ありがとう。」



そう言って

さっちゃんは扉を開けました。

中から光が漏れてきて

まぶしいくらいでした。



さっちゃんは赤い靴を脱いで

そのまま扉の向こうへ歩いていきました。