弟、時々恋、のち狼


「ね?」


唐突に。
ハッと我に返る。

しかしその瞬間、まるで引き換えででもあったかのように、浮かびかかっていた何かが、スッと消えた。


ーーこの人は……大丈夫。

絶対に。


覗き込む、真摯な瞳。

ふと脈絡もなくそう思った。


……話してみようかな。


不思議と、そんな気持ちが湧いてくる。

聞いてもらおうか。
ラッラに話そうと思っていたことすべてを……今、ここで……。


アタシは小さい時から異性と話すのが得意ではなくて、用事一つ済ますのも大変だった。
男の子なんて自分とは全然別の理解不能な生き物に思えたし、大人の男性は純粋に恐ろしく見えた。

今だって、その気持ちに大して変わりはない……はずだ。

なのに。
この瞬間、アタシはロウに親しみを感じている。