弟、時々恋、のち狼


実はね。

そう前おいて、白羽先生はどこか遠くを眺めた。


「…………オレも、さ……まだ記憶が混乱してる頃、怖かった。
あるはずのないものが見えたり、今の自分が偽物みたいに思えたりして……」


何も、信じられず。

そして、何よりも、自分が信じられず。


「ラッラが来てくれなければ、オレはきっと、生きてなかったと思うよ」


現実を超えた目で。でも真剣な、言葉で。


ド……キン……ッ


ラッラという名前に反応して顔をあげたアタシは、ロウの懸命な視線に気圧された。

強い衝撃で心臓の音が乱れる。


……あっ……!!


体を稲妻がかけ抜けるかのような感覚。


ーー知ってる……


何かが心をよぎった。




ーーこの瞳を……知ってる……


遥かな、遥かな記憶。



「だから話してみてよ」


虚ろになりかけていた意識に、ロウの声が響いた。