「っひ!」


出会い頭の怪物に、思わず息をのんだ。

ロウのいる音楽準備室まであと少し。
廊下の角を曲がったとたん、それは突如、口をあけて肉迫していた。

昔、秋の星座の本で読んだ、ギリシア神話に出てくるおばけクジラのような、巨大な化け物。


反射的にギュッと目を閉じた。


大丈夫。
大丈夫。


呪文みたいに繰り返す。
だいたい、これで今日何度目なの?

大丈夫。

なのに、心構えがあまりにもできていなかったせいだろうか。
足の……体の震えがとまらない。


カチカチカチカチ


自分の歯がそんな無様な音をたてているのが聞こえる。


大丈夫!!


耐えがたさに自分自身を抱きしめた、瞬間。


ふわり。


温かいものが肩に触れた。


……ラッラ?


なんとなく、そう思う。

柔らかな、温かさ。