弟、時々恋、のち狼


「えとうつかさ」


ちょうど、読み方を確認するための呼名は、ツカサの番だった。
「はい」と、澄んだ声が無機質に応じる。
なぜか、それだけで、アタシの胸はドキッと鳴った。


顔が見えないこの位置。
かわりに、見られることもない。

この距離はアタシの特等席だ。

アタシには、詩織みたいに積極的に近づいて行くパワーも度胸もない。
意識する相手だからこそ余計、見ているだけが精一杯。それだけで、満足だ。


ツカサは……どう思っただろう。

からかわれただけかもしれないけれど、一度はあんなにも恭しい態度で接してくれたツカサ。
がっかり……しただろうか。
それとも…………。

もう、アタシなんかに興味はナイのだろうか…………。


はあぁぁぁぁぁ


また、重たいため息が出た。