「愛というものは何なのでしょうね」


一頭の白い大きな獣が、ぼんやりと人里を眺めながら独り言のように呟いた。
傍らで寄り添うように眠っていたもう一頭の獣が、薄く目を開く。


「それはどういう意味?」


弟の真意を計りかね、彼女はゆったりと問い返した。
獣たちの囁きが、空気を風のようにサヤサヤと揺らす。


「人間は殊更、愛を語る。慈しむ時も、憎む時も。感情に名前をつけて分類している生き物は人間だけです。愛とは、どこにその基準があるのか……」


「あなたはおもしろいことを気にするのね」


姉は、自らの体をさらに弟の柔らかな毛に添わせ、再び目を閉じる。


「名前……いずれ、我々にも必要になるのかしらね……」


彼女は先の「破壊」のあと、力を蓄えるためによく眠るようになった。
スースーと寝息をたてる片割れの頬をそっと舐め、弟はまた、遠く、世界を眺める。
彼の仕事「再生」は、生き物たちが勝手に行っていく。だから、その光景を眺め、余さず記録することこそが、真の使命。


「……人、か」


弟は、飽きず世界を覗き続けるーーー。