「では各グループごとに調理を開始してください」


なんとか乗り越えた数学のあと、慌ただしく掃除をして家庭科室に滑り込んだ。
ここしばらく、1日を長いと感じてばかりだったのに、昨日今日はあっという間だ。みんなで騒いでいるうちに、もったいないぐらいあっさり時間が流れ去っていく。


「鍋とってー」


「小麦粉ふるうのってどれだっけ?」


準備もワイワイと楽しく進み、なんだか、今日は上手く作れそうな気がしてくる。

渡されたレシピはフレンチクルーラー。シュー生地を揚げる、なかなか難しいドーナツだ。


「あ!卵の殻入っちゃったよ~」


つい、話しの流れで。
できるわけのない卵の片手割りに挑戦し、まんまと失敗してしまった。

あははは

みんなの笑い声に、合わせてアタシも笑う。
こんなことすら、やけにおかしく思えた。


「やだも~」


アタシは、手の中でぐっちゃり潰れた卵の殻を見やった。
ギザギザに尖ったいくつもの小さな破片と、のっぺりとした大きな破片。

「手、汚れちゃったよぉ」


--どくん


突然、体がブレるような激しい動悸が駆け抜けた。