弟、時々恋、のち狼


「もう6時間目も終わるし、大丈夫だね」


軽く腕時計を見やり、授業中を口実に逃げようとするアタシに釘をさす。


「今ならちょうどイイよ」


いつもの音楽準備室に向かいながら、ロウは独り言のようにポツリとつぶやいた。


「今なら、アイツは来ない」


苦虫を噛み潰したような……って、こういうことを言うのかもしれない。



横を歩くその顔は、チラリと盗み見ただけでもはっきりとわかるほど、苦々しくしかめられていた。


アイツって……ツカサ、かな……。


アタシも、恐ろしいような苦しいような、それでいて心安らぐ……なんとも複雑な思いで、廊下を歩く。

なんだか、微妙に、裁かれに行く犯罪者の気分だ。


もう、いっそ、ロウとツカサで話しをつけてくれればイイのに。


無責任に、そんなことすら思った。


「座って」


相変わらずひだまりの心地良い部屋で、ロウは、お気に入りらしいショパンのCDをかけて、教師用のイスに腰をおろした。