「疲れて眠ってしまった……」
愛おしむような柔らかな物言いに改めて安堵し、歩み寄る。
「起こすのは可哀想ね」
ほとんど揺れることのない腕の中で、足を泥だらけにした幼子は規則正しい寝息を立てていた。
「何をしに出たのでしょう」
しばし、あどけない寝顔を眺めながら並んで歩く。
泉の近くまで来ると、ロウがそっとラッラをこちらに差し出した。
静かに受け取ると、抱いたまま手近な岩に腰かける。温もりが、心地良く心を満たした。
ひんやりと冷たいだろう泉に、衣を纏ったままのロウが浸っていく水音がかすかに響く。
外は戦が溢れ、疫病が蔓延している。
病の無関係な身ではあるが、いつしか、社に仕える者たちの真似をして敷地の外に出たあとは禊ぎをすることが習慣になった。
すべては……この小さな命のために。
「…………ミイ?」
抱かれ心地が変わったせいか。胸元から可愛らしい声がした。
「起きたのね。お帰りなさい」
くりくりとしたまなこが、まだ眠気でぼんやりと霞んでいる。



