「ただ人に成り下がれ、と?」


人の中に入るには、やはり獣ではなく人の形が良い。
その判断が、もしかしたらロウを惑わせたのかもしれない……と思う。


「感情をもつこととお役目を棄てることは違います」


琥珀の瞳は真剣な色を浮かべている。


「お役目は棄てません。けれど、このままでは生きていないのと等しい」


何も感じないのなら、それは「いる」のではなく、「ある」という状態。
私は、姉上と二人、きちんとここにいたい。


切々と続く訴えに、次第に目眩がしてくる。


大丈夫、なのだろうか。


こんなことを思う弟は、このまま存在していくことを許されないのではないのだろうか。

しかも……昨日今日のことではないのだ。


「笑うことはできません。
ただ……そうね……」


たぶん今。
初めて、私にも感情というものが生じた。

妙に騒ぎ粟立つ、心。

恐らく、これが


「心配、だわ」


ただ一つ、私が願うとすれば。


「あなたのことが」


ずっと一緒にあった存在。
片方が海であれば片方は川であった。
片方が雲であれば、片方は風であった。
共に生を受け、常に一緒にあった我ら。