弟、時々恋、のち狼

刻々と濃くなる夕闇の中、静かに手をひいてくれるロウ。


ーー愛してる。


アタシも、言ってみたい。
まだ感覚として、難しいけれど……。


ロウはゆっくり歩いてくれている。
アタシに合わせて、歩きやすいように。

白いマンションのエントランスを通り抜ける。
セキュリティーが甘いのは、古いから。でも、手入れは行き届いている。

郵便受け、見なくてイイのかな。

立ち寄る気配も、口を開く気配もない。
なんとなくアタシも、声を出せない。

エレベーターのボタンは7階まであった。細く長い指が、5階を押す。


「ひゃっ」


びっくりして、奇妙な声が出た。

ドアが閉まり、上昇が始まった瞬間だった。