弟、時々恋、のち狼

ゆっくりと振り向く背中。
ロウの、柔らかな、顔。


「泣くなよ」


困ったように笑う。


「怒ってないから。
ごめん、大人気なかったね」


いつもの、優しいしゃべり方。
頭にポンと置かれた手は、温かかった。


「ね?」


泣いてないもん。
言いたかったけれど、下手に口を開くと溜まった涙がこぼれ落ちてしまいそうだ。

良かった……。


「しょうがないなぁ。
オレんち、ホントにもうすぐだから」


黙りこくるアタシの右手を掴むと、指をからめて歩き出す。

嫌われなかった。

そのことがこんなにも嬉しい。

この手を放したくない。
そのためなら、何でもできる。そんな気がした。

怖いのは、みんなに知られることじゃない。
妬まれることでもない。


ーーロウを、失うこと。