「まだ30歳ですから」
「ほぉ、さようでございましたか。私の半分にも満たないとは。いいですぞ、一人身というものは身軽で。まぁ、寂しくないといったら嘘になりますがね」
最後の一言は、口元に手を当ててボソッと呟いた。
そういえば、滝山ってずっと独身なのかしら。
私に物心がついた頃から一人だったと思うけれど。
もしかしたら、バツが一つ二つ、あったりして。
若い頃はきっとモテたに違いないハッキリとした顔立ちは、歳を重ねても健在だし。
身長だってそこそこある。
還暦を過ぎてもバイクを乗り回すくらいなのだから、若い頃はイケイケだったかもしれない。
そんなことを一人考えていると、滝山が「薫子様? いかがされましたか?」と小首を傾げた。
滝山の若かりし頃を妄想していたとは言えず。



