薫子様、一大事でございます!


「こんなに美味しいものを食べずに生きていくのは、この滝山には考えられないことでございます。ああ、美味しい」


大きな口に放り込んで、満足げに頷いた。


「ところで、あなた様のお名前は?」


ぼた餅を3つ食べ終えたところで、思い出したように滝山が切り出す。


そんな様子をぽかんと眺めていた彼は、突然話を振られて面食らっているようだった。


「……北見涼夜(きたみ りょうや)」

「ほう、北見さんとおっしゃるのですな。私は滝山銀二です。そして、こちらは、」

「二階堂薫子です」


なかなか出番のない名刺を差し出した。


それは、ここを始めたときに芙美さんが「名刺がないとカッコがつかないからね」と、お祝いと称してくれたものだった。