薫子様、一大事でございます!


えっ……?


自分が今したことと正反対だということに、ギクリとする。


「嘘だとバレないように、逆にジッと相手の目を見るんだ」

「――で、でもっ」

「いいんだよ、薫子。恋愛経験がなくても別に」

「……はい?」


怒らないの……?

そんな女じゃ、彼女のフリは無理だって。


「ということは、俺が初めての男ってわけだ」


それは違う。


「これは仕事ですから」


毅然とした態度を示した。


手を繋いでるのも、名前を呼び捨てにさせるのも、全部仕事のため。


「そうだとしても、仮にも俺の友達の前では彼女ってことで紹介するわけだし」

「そうですけど……」


早川さんが初めて出来た彼氏だなんて。


……勘定に入れたくない。


だって……。


「ま、細かいことはどうでもいいや。とにかく、俺の彼女ってことでよろしく」


再び早川さんに手を引かれて歩き出した。