「聞いてみたことはないのかい?」
首を横に振った。
「あまり詮索しない方がいいのかと思って……」
訊ねられたくないことだってあるかもしれない。
怪我を負ってここへ来たときには、何かしらのトラブルがあったようだったし。
父親も母親もいないんだと、少しだけ寂しそうに話していた北見さんの顔を思い出すと、胸がキュッと軋む。
「ま、私も詮索するつもりはないけどね」
そこでふと思い当たることがあった。
私自身のことだ。
自分のことも、芙美さんにはきちんと話していない。
何も訊ねない芙美さんに甘えるばかりで。
私がどうして家を飛び出したのか、それすら言っていなかった。



