薫子様、一大事でございます!


そのたびごとに小さく悲鳴を上げる私に、北見さんが呆れる。


「俺は痴漢か」

「違います……」


時折通る通行人に怪しまれないように、恋人同士のじゃれ合いに見せるためだってことは分かってる。


……でも。
ドキドキしちゃうんだもの、仕方ないじゃない。


そんなことにすら慣れてないのだから。


男の人にそうされた時にどうしたらいいのか、全然分からないんだから。


太陽が沈んで幾分か涼しくはなったけれど、喉だってカラカラ。


「あの……何か飲みませんか?」

「何言ってんだよ、こんな時に」

「ちょっと喉が渇いちゃって」

「あと少しの辛抱だ。我慢しろ」


至近距離で睨まれて


「……はい、すみません」


すごすごと退散するしかなかった。