井上さんを追うどころじゃなかった。
とにかく、繋がれた右手が気になって気になって仕方がなくて。
北見さんの横顔を見るのも恥ずかしいほどだった。
そんな私の動揺をよそに、井上さんが立ち止まって本を手に取るたびに、北見さんはその様子を何度かデジカメで撮影し、手帳に時間を記すのだった。
そして、書店で何冊か本を買った井上さんは、すっかり陽の落ちた街を歩き出した。
変わらず、北見さんの手は繋がれたまま。
さっきよりは歩調がゆっくりになった井上さんを追いつつ、私の全神経は右手に注がれていた。
「カコちゃん?」
「――は、はい?」
急に話しかけられて、ビクンと肩先が揺れる。
「さっきから何もしゃべんないけど、どこか具合でも悪いのか?」



