「セシエル様…アオイが奴の記憶を留めているということは……」


「あぁ…恐らくあれはアオイさんの実体。すまない…この作戦は失敗だ。彼女を巻き込むわけにはいかないからね…」


「ねぇお父さま、お母さまの友達が怪我してるんだってさ。助けにいってあげよう?」


セシエルの衣の裾を引く少年。
するとセシエルは…


「あとでお父さまが治しに行くよ。お母さまを探してきてくれてありがとう」


「ううんっ!!」


頭を撫でられ、照れたように笑う少年。

するとキュリオを振り返ったセシエル。


「あの男の目を見なさい。もう戦意は失われている」


神剣の召喚を解除したセシエルの手元から光が溢れた。


「このままで良いとは言えないが、あの男にとっても彼女は特別な存在らしい。アオイさんに危害を加えることはないはずだ」


「……」


無言のまま寄り添う二人を見つめているキュリオ。


「お母さまが男の人と仲良くしてるよ…?いいの!?お父さま!!」


口を尖らせた少年。彼はそう言って父親に声を上げたが、どう見ても彼自身が嫉妬しているようにしか見えない。


「そうだね。そろそろご勘弁頂こうか…キュリオ」


「…は…、…」


「そうだよっ!!はやくはやくっ!!」


キュリオの"はい"は言葉にならなかった。
それより早く少年が頷いてしまったからである。

と、会話を聞いていたキュリオが目を丸くして問いかけた。


「セシエル様、今なんと…?」


「あぁ、これは私の夢だ。可愛い息子はお前、そしてこの子の母親…つまり私の妻はアオイさんだ」


(…これがセシエル様が望んだ未来の姿…)


「……」


無欲の彼が唯一望んだ愛がここにある。
それはキュリオとて同じ…常に彼女の隣にいることを許された理想の世界でもあった―――。