この晩、大樹の露を口にした幼子は一睡もすることなく明け方を迎えた。己の右手は銀髪の王にしっかり握られ…アオイが小さく身動きするたび、手の甲を彼の指先が優しく撫でる。



「…体は辛くないかい?」



「…?」



キュリオの問いに目を丸くしているアオイ。彼女はとくに疲れた様子も見せず、その瞳はいつものように輝いて…目の前のキュリオの姿をうつしていた。


そして、対するキュリオも眠っていないにも関わらず…いつもと変わらぬ涼しげな表情を浮かべている。彼の手は労わるように彼女の目元をなでると、しなやかな上体を起こし…艶やかな長い銀髪をかきあげた。



「そうだ…ちょっと散歩にでてみようか」



そう言って振り返ったキュリオの胸元ははだけ、透き通るような白い肌が露わになった。人前では決して見せぬはずのその姿をアオイは何度目にしただろう。そして、サラリと流れた銀の髪が朝日を受けて彼の顔に影をつくる。



―――今までどれほどの女たちが彼の心を欲しただろう。



歴代の王たちは皆麗しく、先代の悠久の王もかなり人気があったと聞く。しかし、先代の彼も全く女性に興味を示さず…一心に民を思っていた素晴らしい人格者だった。