そして堀の深い彫刻のようなエデンの顔に吹き付けるのは、冷たい灰色の風だった。そしてその風が運んでくるのは楽しそうな鳥たちの声でもなく、人々の活気ある生活の音でもない。それがかつての賑(にぎ)わいを知るエデンの表情はさらに険しいものへと変えてゆく。


さらに中庭を歩くエデン。気がつけば腹の底から響くような雷の音が遠くに聞こえ始めた。悲しみの色を浮かべた彼の瞳は…穏やかだった頃のこの地の美しさを覚えている。頭上には澄み渡る青い空に、眼下に広がるのは色彩豊かな満開の花々。もはやその面影を探すことは出来ず、彼の心に暗い影を落としていった。



「エデン殿…?」



背後から聞き覚えのある声がかかり、<雷帝>はゆっくり振り返る。そしてそこに立っていたのは…彼の永遠の恋人をよく知るひとりの青年だった―――――