「お前はどこから来たんだい?」

「……」

赤ん坊から聞こえてくるのは健やかな寝息だけで返事はない。キュリオは指先で赤ん坊の額にかかる前髪を優しく梳くと、彼女の頬に顔を寄せ…囁いた。

「どこから来たかなんて関係ないさ…」

「…あぁ、それよりいつまでも"お前"じゃ可哀想だね」

(明日、ゆっくり考えることにしよう)

わずかに高鳴る胸に気付かずにキュリオは寝台へと向かう。

この白く大きな天蓋(てんがい)のベッドに、いまだかつて彼以外の人物が立ち入ることはありえなかった。それを躊躇(ちゅうちょ)することなくそっと胸に抱いた赤ん坊を横たえ、穏やかな寝顔をもう一度見つめる。

「良い夢を…」

半ば、離れがたいような気持ちを抑えながらキュリオは音もなく部屋をあとにする。



(あのくらいの子の食事といえば、やはりミルク…だろうな)


キュリオは食事の用意されている広間ではなく、厨房へと足を向けるのだった―――