「ずっと泣き虫な子どもだったのに、いつから玲汰を見上げるようになったんだろうとか」

再び、声が俺に届いてきた。


「昔は私が玲汰に日焼け止めとか塗ってあげてたのに、それを恥ずかしがって拒否されて、いつからこんなにこんがりと日焼けした姿が似合うようになったんだろうとか」

「………」

「そんなことを思ってたらあっという間に玲汰に抜かされてた。あの時ゴールした玲汰の顔は今でも頭に焼き付いてるよ」


俺はただ自転車を漕ぐだけ。

だから二人乗りは嫌いなんだ。前でも後ろでもその表情が分からない。

分からないから、ちょっと莉緒の声が弱く聞こえる。


「自分で私を追い抜いていったくせに信じられないって目を丸くしてさ。そういうことを今日もまた思い出したら、ゴールするよりあんたの背中を見てるほうが清々しい気がしたんだよ」


その言葉を聞いて、俺は自転車を止めた。

やっと地面に足が着いて、くるりと振り返る。


「なんかお前……最近ヘンじゃね?」