「おい、どういうことだよ」
休み時間になって、もちろん俺はすぐに杉野に詰め寄った。黒板のリレーの選手の欄にはしっかりと俺の名前が書かれているし、クラスメイトたちからは早速「頑張ってね!」と応援された。
これじゃもう、やりたくないなんて言えない雰囲気だ。
「だって池内って足速いんだろ?」
そんなこと言った覚えはないし、そんな話はしたことがない。
「……だれから聞いた?」
「お前の情報なんて持ってる人はひとりしかいないだろ」
杉野はそう言ってコーヒー牛乳を涼しい顔をして飲んでいた。
……やっぱりあいつか。
どうやって杉野に伝えたのかは分からないけど、杉野がいきなり俺を推薦した理由は分かった。
おそらく莉緒がそうして、と頼んだのだろう。
俺に得意なものなんてないけど、今までで唯一あいつに勝てたものがある。それが短距離走。
母ちゃんも親父も学生時代は陸上部だったらしいし、その遺伝子が引き継がれていたのかもしれない。
それでも勝てたのは1回だけ。
自信なんてないし、自分で足が速い自覚もないからいつもスタートダッシュで失敗する。
調子よくスタートに成功しても、途中で靴ひもがほどけたり足がもつれて転んだりする。だから俺があいつに勝ったのは本当に1回だけなんだ。



