「そういえば玲汰ね、ちょっとモテ期が来てるんだよ」

食後の紅茶を飲みながら莉緒が母ちゃんに言う。


「ええ?うちの子にモテ期?」

何故かものすごく驚かれたけど、俺は親の目から見てもそんなにモテなそうに見えるのか。

莉緒は「な?」と俺に同意を求めるようにニヤニヤしていて、俺は無言で飲み物を飲んだ。


べつにモテ期がきたわけじゃない。

ただあの球技大会の一件で、ちょっとだけ俺への印象が変わっただけ。

大勢の男子の中のひとりだったのにお姫さまだっこをして幼なじみを助けた人に変わって、わりとあれ以来色々な人に声をかけられるようになった。

かといって人付き合いのスキルが上がったわけじゃなくて、相変わらず知らない人と喋るのは苦手だけど。


「……お前が倒れたりするからだろ」

ぽつりと呟くと、母ちゃんの関心はすぐに俺ではなく莉緒に移った。


「え、り、莉緒ちゃん倒れたの?いつ?大丈夫なの?」


莉緒は元気の塊みたいなヤツだし、そんなこいつが倒れたなんて母ちゃんにとってもただ事じゃないらしい。


「べつにただの貧血だよ。大したことじゃないから」

その慌てる空気を払うように莉緒は冷静にまた紅茶を飲んだ。