莉緒は自転車を漕ぎながら前だけを見つめていた。
どうせ返ってくる言葉は分かっている。
「お前に友達がいないからだろ」とか「黙って自転車の後ろに乗ってればいいんだよ」とか絶対に上から俺を押し付けるような言い方をするんだ。
「だって玲汰、近所のあの犬が怖いだろ」
「……は?」
思わず強めに聞き返してしまった。
まさかそんなことを言ってくるとは思わなかった。確かに近所には鎖に繋がれていない狂暴な犬がいる。
いや、正確にはいた。
犬種は分からないけどすげー大きくて、前の道路を通るたびに門の隙間からいきなり顔を出してワンワンと吠える。
例えるならアレだ。
骨の形をしたものをエサ箱から取るとブルドックが目を覚まして噛み付くあのおもちゃみたいな恐怖感。
だからあの前を通らなきゃいけない時は絶対に莉緒と手を繋いで歩いたし、性格的に気が合うのかあの犬は莉緒にだけは絶対に吠えなかった。
でも俺がビクビクとしていたのは昔の話。
元気だった犬も10年経てば衰えるし年も取る。今じゃ前を通っても庭先からチラッとこっちを見るだけで立ち上がることすらしない。
そんなことは莉緒だって知ってるはずなのに。



