「……あっそ」



離れた手のぬくもり。

突然、低くなった声。


……もしかして、ちょっと怒ってる?

急速に体温が下がっていく気がした。


私を覆っていた影が退いて、彼は背を向ける。



「……い、」



とっさに手を伸ばして、引き止めようかなんて思ったけど、そんな理由を言葉にできる自信が無かった。

放ちかけた言葉も、飲み込んだ。


何よ、先にからかってきたのは、そっちでしょ。

なのにどうして私が悪者みたいな雰囲気なの。



でもね、市原くん。

……本当はね、知ってるんだ。

とっくに、気付いてるんだ。



ーー " 市原くんなんて、好きじゃない。"

そうやって心の中で、頭の中で、繰り返し唱えてる時点できっと手遅れだって。


だけどそんなこと認めたところで、きっと困らせるだけでしょ?




「……何で、こうなっちゃったんだろう」





私一人取り残された教室で呟いた言葉は、誰にも届かずに、差し込むオレンジに溶け込んだ。