「……あっそ」
離れた手のぬくもり。
突然、低くなった声。
……もしかして、ちょっと怒ってる?
急速に体温が下がっていく気がした。
私を覆っていた影が退いて、彼は背を向ける。
「……い、」
とっさに手を伸ばして、引き止めようかなんて思ったけど、そんな理由を言葉にできる自信が無かった。
放ちかけた言葉も、飲み込んだ。
何よ、先にからかってきたのは、そっちでしょ。
なのにどうして私が悪者みたいな雰囲気なの。
でもね、市原くん。
……本当はね、知ってるんだ。
とっくに、気付いてるんだ。
ーー " 市原くんなんて、好きじゃない。"
そうやって心の中で、頭の中で、繰り返し唱えてる時点できっと手遅れだって。
だけどそんなこと認めたところで、きっと困らせるだけでしょ?
「……何で、こうなっちゃったんだろう」
私一人取り残された教室で呟いた言葉は、誰にも届かずに、差し込むオレンジに溶け込んだ。

![[短編]初恋を終わらせる日。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.761/img/book/genre1.png)
