「持田から離れるの?今度は柳瀬さんが自己満足な優しさで傷つけるの?」


「私は、持田がいなくても生きていけるよ」





背を向けたままだけど、そうハッキリとそう告げると柔らかな春風が吹く。


そんな風に乗って、後ろから届くため息。





「どうしたら、そんなこと言えるの?自分と同じ苦しみを持田にも味あわせるつもり?」


「でも、持田がいないと幸せになれない」


「……え?」





持田がいなくたって、生きていける。

ただ息をして、食事して、学校に通って、日常生活を送ることは出来る。


ただ今よりもずっと世界は色あせて、楽しくない、それだけ。





「だから、知りもしない人の為に別れたりなんかしない。あのバカがいない世界なんて、つまらないもん」





顔だけを少し後ろに向けて、ざわつく胸も、微かに震えた声も、大丈夫だと自分に言い聞かせるように、そっと微笑んだ。