「持田から離れるの?今度は柳瀬さんが自己満足な優しさで傷つけるの?」
「私は、持田がいなくても生きていけるよ」
背を向けたままだけど、そうハッキリとそう告げると柔らかな春風が吹く。
そんな風に乗って、後ろから届くため息。
「どうしたら、そんなこと言えるの?自分と同じ苦しみを持田にも味あわせるつもり?」
「でも、持田がいないと幸せになれない」
「……え?」
持田がいなくたって、生きていける。
ただ息をして、食事して、学校に通って、日常生活を送ることは出来る。
ただ今よりもずっと世界は色あせて、楽しくない、それだけ。
「だから、知りもしない人の為に別れたりなんかしない。あのバカがいない世界なんて、つまらないもん」
顔だけを少し後ろに向けて、ざわつく胸も、微かに震えた声も、大丈夫だと自分に言い聞かせるように、そっと微笑んだ。

![[短編]初恋を終わらせる日。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.761/img/book/genre1.png)
