………

……






世界に、光が戻る。




「う……」




体に感じる重苦しさが、さっきよりも強くなる。

……まだよくわからないけれど、私は、元の世界に戻ってくることが出来たらしい。




「……」




ゆっくりと目を開き、ギュッと握り締めていた手を見つめるけれど、そこにはもう誰の温もりも感じなかった。

……ここに、八峠さんは居ない。




「杏さん……双葉 杏さん……わかりますか……?」




自分の手から少し横に視線を移すと、そこには泣き出しそうな顔の女性が居た。




「……ユキ、さん……?」

「はい、私ですっ。 ごめんなさい、私を助けるために、あなたの力がっ……」

「……ううん、大丈夫。 大丈夫です」




気怠さは感じるものの、体は動く。




「……今、どうなってるんですか……?」




ゆっくりと体を起こした時に見えたのは、安心したように笑う氷雨くんと、微笑みを浮かべる雨音さん。

そして、私たち全員を囲う結界の『外側』に居るイツキさんだった。




「……陽炎が、ここへ向かっているんです」




相変わらず泣きそうな顔のユキさんは、よく見れば私へと力を送ってくれているようだ。

ゲームなんかで言う、まさに回復呪文。

彼女の温かい加護のおかげで、私は今 動くことが出来ているらしい。




「双葉ちゃん、よく聞いてね」



安心したような顔を見せていた氷雨くんだったけれど、そう言ったあとにはすぐに表情を引き締めた。

そして、どこか言いにくそうにしながらも、ハッキリと私に言う。




「薄暮さんがやられたらしい。 俺には全然わかんないけど、イツキさんと母さんが、そういう気配みたいなのを感じ取ったんだとさ」

「……薄暮さんが、カゲロウに……?」

「そう、カゲロウは今こっちに向かってる。 多分あと少しで……──」




と、氷雨くんが言いかけた時だ。




「──……うわっ!? 地震ッ……!?」

「……っ……!!」




……地面が激しく揺れ、小屋が一瞬で倒壊した。

結界が無かったら間違いなく瓦礫の下敷きだ。

結界の外側に居たイツキさんは、倒壊の直前にギリギリ結界の中に滑り込んで難を逃れたけれど、彼の表情は険しいままだ。


その理由はもちろん……。




「陽炎……」




……彼が現れたからだ。