「秋から貰った札に俺の作った結界を重ねた。 お前の存在は、今は『無』だ」

「……ねぇ、八峠さん」

「あ?」


「秋さんは……薄暮さんに斬られたあの時、やっぱり苦しかったかな……?」




溢れ出す涙を拭いながら、もう一方の手でお札を握り締める。


病院で薄暮さんが斬ったアレは『藤堂 秋』ではなく、『藤堂 秋の形をしたモノ』。

つまり、私の知っている秋さん本人ではないということになる。

でも……それでも秋さんは、秋さんの思いは、どこかに残っていたんじゃないかと考えてしまう。

だから、私はあの叫び声が秋さんの叫びに聞こえた。

……とても苦しそうな声を、私は忘れることが出来ない。




「斬られた時ってのは、やっぱり痛いんじゃないか?
人間だって怪我をすりゃ痛いし、よっぽどの時は叫び声も上げるだろ」

「……」

「でも、秋はハクに救われたから……だから今はもう苦しんではいないと思う」


「……え?」

「だって、カゲロウから解放されたんだぞ? アイツはもう操り人形なんかじゃない。 それって凄く幸せなことだと思うよ」




……カゲロウから、解放……。




──『凶暴化してる幽霊は、『凶暴にさせられている』んです。
凶暴に動く原因を突き止め、それを無くしてやる。 そうすると、巻き込まれた者たちは自然と散っていくんです』




……そういえば、前に薄暮さんがそう言ってたっけ。

幽霊は『凶暴にさせられている』。

そうじゃなければ、ほとんどの霊は無害なんだと彼は言っていた。


……カゲロウの手に落ちてしまったから、彼らはみんな無理矢理に動かされている。

秋さんも同じように動かされ、そして……薄暮さんの手によって、救われた……。