その日の夜、一本の電話がかかってきた。携帯の着信画面を見ると、「晴乃」とある。僕は、心から安堵して電話に出た。


「「もしもし、ゆうちゃん?晴乃だよ」」


「晴乃!お前、今回はなんてことを……」


「「ねえねえ、今、どこにいるかわかる?」」


「家だろう?全く、僕がどんなに」


「「えへへ、今ね、お墓の中だよ!」」


「はあ?お前、何」


「「お墓の中にね、携帯入れてもらってかけてるの」」


話がかみ合わない。僕が話そうとすると、晴乃が話すのだ。それに、背後にノイズがかかっていて、よく聞き取れない。


「晴乃、もうやめ」


「「ハッピーハロウィン!トリック・オア・トリート!」」


そこで、電話の声は晴乃の妹のものになった。


「すみません、私、妹の明乃(あきの)です。今日はお世話になりました」


「あ、どうも……で、えっと、晴乃は?」


「姉は、無事にお葬式も納骨も済みました。今日は来てくださってありがとうございました。姉がいちばん好きだったハロウィンの日に、お葬式ができて良かったです」


「え、それじゃ……晴乃は、本当に……?」


「はい。亡くなりました。本当に事故だったんです。でも、今年のハロウィンは、自分のお葬式を計画していて、あなたを驚かせた後、この電話をかけるつもりで練習していたんです。今、流したのはその練習用のテープです。実は、事故後少し意識があって、あなたに忘れられないハロウィンを、と言い残したので、この計画を立てたんです。驚かせてごめんなさい。でも姉は、きっと浮かばれると思います。勝手ですみません……」


明乃は電話口で泣き崩れた。僕は、声も出なかった。