そうして僕たちは大学生になった。大学生一回目のハロウィン。それは、彼女の「葬式」だった。


ハロウィン前日、晴乃の妹からメールが来た。姉が事故死したという内容だった。そして、お通夜は今日で、お葬式は明日、と書いてあった。詳しい時間や会場まで書かれている。なかなか凝っているな。しかし僕は、お通夜だと言われた日は試験があって、会場に行けなかった。それで、ハロウィン当日の「葬式」に参列することになった。


会場はこぢんまりしていたが、会葬客は何人もいて、白い花があちこちに飾られていた。晴乃が好きな花ばかりだ。音楽は、晴乃がファンの女性歌手のバラードがかかっている。


なかなかだな。すごいぞ、晴乃。


僕は、式が始まるまでぼんやりと席に座っていたが、彼女の妹が近寄ってきて、式の前に姉の顔を見てほしいと言ってきた。


いよいよだな。棺の中から登場して、「トリック・オア・トリート!」だろう?


そんな予想をしながら、僕は棺に近寄った。妹が棺の蓋を少しずらしてくれた。


そこに、晴乃はいた。


目を閉じて、美しい花に囲まれて、笑っているようだった。そして妹が、ジャック・オー・ランタンを手渡してくれて、棺に入れてやってください、と涙を拭いた。


僕がこれを入れた瞬間、晴乃は目をぱちっと開けて、にっこり笑って、「トリック・オア・トリート!」









………あれ?


僕は首をかしげた。
晴乃は、ぴくりとも動かない。妹はすすり泣いている。晴乃は、何も言わずに、今まで見た中でいちばんきれいな笑顔を浮かべたままだ。


あれ?


僕は、もう一度ジャック・オー・ランタンを入れてみた。それでも晴乃はじっとしている。


「晴乃」


僕は、組み合わされた晴乃の手に触れた。


とても冷たい。よく見ると、ドライアイスが入っているではないか。


これは、何かがおかしい。あんまりだ。



僕がまごまごしているうちに、式が始まった。僧侶の読経の中で、毎年この時期に晴乃と謝りに来ていたおばさんも、ハンカチで涙を拭いている。泣いていないのは、僕だけだ。



晴乃。いたずらなんだろ?また、いつもみたいに、おばさんと謝りに来るんだろ?


だったら、もう十分びっくりしたから、目を開けてくれよ。立ち上がってくれよ。


ちゃんと、晴乃が好きなミルフィーユを今度ご馳走するから。


お願いだ……………。