桜ノ雫 ~記憶編~



えっ?




「何故…」




「それは僕にも分からない。

でも僕に彼は最後にこう言った。

『例え私が嫌われ役になっても

怨まれ憎まれても構わない。

ただあの子はもう、

妖と交えては決してならない』って」




「その言葉陰狼は知っているのか?」




「おそらく知らない。

…その後神矢家は一旦滅びた。

ただ一人陰狼を残して…。

陰狼は大好きだった式神に

裏切られた衝動で

全ての妖を憎み始めた。

そして神矢家に仕えていた式神を

たった二人を残して

全て呪縛縛りの式にした。

もちろん僕も…」




躬如は悲しそうに目を伏せて耳を下げた。




「たった二人を残してって事は

残されたのはカイコ狐…?」




「そう。

二人は今も陰狼の側にいる。

昔と違うのはさっきまでの僕の様に

一言も話せなくなっているところかな」




一言も…。




「僕は呪縛縛りも無くなって

こうして喋れる様になった。

詰まり陰狼の元へは戻れない。

でも、僕は今でも陰狼が好き」




「呪縛縛りをされたのに?」