桜ノ雫 ~記憶編~

背中がゾッとした。



合うはずのない目と合ってしまったから。



千里眼を使っているということは相手には私の姿は見えないはず。



なのに目が合ってしまった。



蛇に睨まれたカエルのように私は動くことができなかった。




「雪莉」




パンッ



っ!?



猫騙し…?



遥は私の目の前で手を一回叩いた。




「大丈夫だ…。

…予定変更だ。

木の下に降りる」




「うん」




どうして予定変更したのか私にはわからなかったけど今はそれどころじゃなかった。



私たちは木の根元に身を隠した。



私が結界を張って。




「ねぇ…遥」




だんだんと近づく邪気を感じながら遥には私は語りかけた。




「山神様の本当の姿は…

あんなだいだらぼっちみたいに

大きくないよね…?」



「だいだらぼっち…。

…確かに山神は大きなトナカイの姿に

大木の様に大きなツノを持っている。

そして山神が歩くところには

季節を問わず草花が生い茂るとも

言われている。

…だが一度でも心が汚れてしまうと

だいだらぼっちの様に

汚れた姿になる」