桜ノ雫 ~記憶編~


「山神は堕ちても山神だ。

…まず俺が糸を切る。

そうすると多分山神は怒って

俺たちの場所を意地でも

突き止めるだろう。

その隙に逃げよう」




…そう。



山神様は例え堕ちても《神様》という名目を持っている。



…詰まり私達は神に背く。




「…怖いか?」




「…え?」




「すまない。

こんなになってしまうまで

守りきれなくて…」




私は急いで首を左右に振った。



悲しい顔をした遥を見たくなかったから…。




「うんん。

記憶を無くした時も陰狼に

心を奪われた時も

ずっと私を守ってくれたから

今ここに私がいる…。

だから…。

…ありがと///」




改めて遥の顔を見てお礼を言うのなんか恥ずかしい。




「どういたしまして♪」




これからは少しずつ伝えなきゃ。



《ありがとう》を少しでも伝わるように。



ユウにも冬紀にも優希にも……輝にも。




「糸を斬ったら結界を張ってくれ」




「うん」




遥は片手に妖力で作った短剣を握った。



そして私に付いた糸を斬った。



そのすぐ後だった。



あまり遠くない場所から殺気が吹き込まれた妖力が流れてきた。