なんで?何がどうしてこうなった?
なんでお家が燃えてるの?
なんで、人間が私たちの村を焼くの?何もしてないのに…。
『はぁはぁッはぁはぁ』
ただひたすらに暗い森の中を走る。
目の前には肩を上下させながら荒い息を吐く双子の兄の姿。
そして、その隣には

『早くッ、早く遠くへッ人間たちがすぐそこまで来てるっ』

必死に走る母の姿…

『待てぇっ、追え,追うんだ!』

母の言うとおり大勢の人間が追いかけてきている。
それを見た母は苦虫でも潰したような顔になった。
そして、急に立ち止まる。綺麗な雪の結晶の簪がチリンと揺れた。

『母様ッ⁉︎』

突然の事に兄が足を止め、母に駆け寄る。

『何故止まるのですッ!早く逃げなければ人間がっ』

『早く、貴方たちはお逃げなさい。』

すると、母様は静かな声で兄の声を遮った。

『はっ⁉︎』

突然の事に兄は目を見張る。

『雪蓮、貴方は雪儷を連れて遠くへ逃げなさい。その間、母は人間のおとりとなります。そうすれば,貴方達は確実に逃げられるでしょう。』

母様はいったて冷静に言った。
でも、よくよく考えれば母様が捕まるリスクが高いのだ。
最悪、母様を失くすかもしれない…
そうなると、もう自分達に親はいなくなってしまうのだ。
父は、家族を守るため人間達に挑んで行った、でも、数に圧倒的ふりがあり負けてしまった。
そう考えるとやはり母様をおいとけぼりにはどうしてもしたくない。
それを、兄の雪蓮も思ったのだろう。

『いけませんっ!母様!貴方がおとりなどっ、それも、私と雪儷はまだ10歳。母様なしでは生きてはゆけませんっ!』

叫ぶ様に兄が言う。

『そうです!母様!だから一緒に、逃げっ…』

『いいから逃げるのです!』

母の怒号が飛んだ。
そして、ふと悲しい目をした。

『いいですか?二人共。母様はあなた方二人が生まれてきた時本当に嬉しかった。ですから、その命を無駄にしたくはないのです。
それに、雪蓮、雪儷は私たち種族の中でも特別なのです。必ず、生き残らなければならない…
だから!早くいくのですっ!』

そう言うと母様を中心に冷気が吹き出した。
そして、一体の大きな白い狐が現れる。綺麗な青色の目をしている。

『お呼びでしょうか。我が君。』

そう言って頭を下げた。
私と兄はびっくりして目をパチパチさせる。

『ええ、よくでてきてくれました。
銀狐、主からの最後の命令…いえ、お願いです。この子達を人間の手の届かない所へ連れていき、立派になるまで育ててあげてください。』

『はっ』

銀狐はお辞儀をすると、私たちをひょいひょいと背中に乗せると走る出す。

『頼みましたよ。』

母様は微笑んだ。その姿は息を飲むほど美しいものだった。
それと同時に儚さも伝わってくる。このまま、母様が散ってなくなってしまいそうで……


『いや、母様ッ!!!!』

私が銀狐から降りようとすると、
ダメだと兄に止められた。

『なんで⁉︎どうして!このままじゃ母様はッ』

思わず兄の顔を睨みつけるように見る。

『母様の顔を見ただろう?あれは、覚悟を決めた顔だ。その思いを無駄にしてはダメだ。』

兄は母様がいる方をジッと真剣に見つめている。
もう、そこには母様の姿は見えなかった。その代わりに雪吹雪が嵐の如くに吹いている。周りには、冷気が立ち込み、周りの木や草は凍っていた。

『母様ぁぁぁぁぁーーーーッッ!!
!!』

涙が一筋でた。
一度でた涙は後から次々と零れ落ちてくる。

『うぅッ…う…ひっく…ぅ…ッ』

苦しくて、苦しくて息をうまく吸えない。すると、背中に暖かい温もりを感じた。
びっくりして顔をあげると兄が…雪蓮が自分を抱きしめていてくれた。
黙って、でも私を撫でる手はすごい優しくて、雪蓮だって辛いだろうに、泣きたいだろうに…
ありがとう、兄様…いえ、雪蓮。
雪蓮の優しい温もりに感謝した。

それと同時に雪儷の心の奥底にどす黒いものが渦巻いていた。
許さない、許さない許さないッ!!!人間が憎いッ。憎い憎い憎い憎い!!大切な家族をも殺して、一緒に過ごしてきた、村の仲間も殺して………ッ
絶対に許さない、いつか!いつかこの恨みを!復習をしてやるっ!!

雪儷はその時誓ったのだ。

わずか10歳の少女の瞳には憎しみ、怒りの色が映し出されていた